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国立劇場『通し狂言 彦山権現誓助剣』 [観 劇-歌舞伎]

◎二代目魁春さんの色気
十一月に国立劇場で上演された『仮名手本忠臣蔵』では、おかる役を勤められた魁春さん。私は初日と千穐楽を拝見して、一ヶ月の間に随分と魁春さんの雰囲気が変わられたと感じた。初日はお石の冷たい印象がとても強かったのだけれど、千穐楽には、とても可愛らしい、色気のあるおかるをゆったりと演じていらして、ため息が出るほどであった。
その魁春さんが今回の舞台では力持ちの武術の名手、お園を演じる。(序幕・三幕)
父親一味斎を亡くした後の愁嘆場で見せる女らしさとは打って変わって、立ち廻りのきびきびとした動きにはめりはりがあってとっても魅力的だ。一本筋の通ったきりりと引き締まった顔つきや、「しの字づくし」の流れるような台詞回しにうっとりとさせられた。
歌舞伎を見ていて常々思っていることなのだが、私は歌舞伎特有の面白さの一つに、この「しの字づくし」のような台詞回しの妙、といったものがあると考える。序幕、したたか酔って帰ってきたお園が、母お幸に言い訳をする場面でこの「しの字づくし」が登場する。「四条を通って」「篠田芝右衛門」「死ぬるほどに」「白藤さまの」(正確なセリフは未確認。すみません)など、「し」のつく言葉がいくつも取り上げられて連ねられ、一連の長い台詞を形成しているのだが、この言葉遊びによって醸し出されるなんともユーモラスで遊び心のある風情が、聞いていて非常に愉快で楽しかった。その上、この台詞を含めて、今回の舞台では「ノリ」と呼ばれる台詞手法が多用されていて、相当に耳が楽しめる舞台であったと思う。
「ノリ」というのは三味線の合いの手(あるいは伴奏)に文字通りノるようにして、流れる水のごとく台詞が接がれて行く手法。聞いている観客にとって「ノリ」による台詞は実に耳に心地よく、役者さんの声や台詞回しに聞きほれてしまうところではあるのだが、役者さんと三味線さんにとっては、少しでも台詞と三味線のタイミングがずれてしまえばそれまでの、とても厳しく、非常に神経を使う部分なのだそうだ。だが、ミュージカルと違って役者がいきなり歌い出すわけではないのに、「ノリ」の部分には非常に豊かな音楽性がある。それはもちろん、日本語の作り出す五七調・七五調といった、形式的でありながらも自然な節回しに拠るところが大きいのだろうが、私はこのような部分の持つ面白さ、楽しさが歌舞伎の(あるいは日本語の)持つ魅力の一つであると、心から思ったりするのである。
多少残念に思ったのは客席で、役者さんの登場シーンや見得の場面での拍手が少なく、いささか興醒める。共に観劇した友人と「イヤホンガイドで〈ここで拍手〉という解説も入れてみてはどうだろうか」などと話したほど。

◎大向こうさんのしゃれっ気
今回の舞台には六助役の中村富十郎さんのご子息・大ちゃん(3歳)が弥三松役で出演しており、その可愛らしい演技で舞台に華を添えていた。大向こうさんにもとても粋な方がいらして、大ちゃんが山科の助六の家に、外から石を拾って帰ってきたところへ絶妙な「お帰り!!」のお声がかかる。(しかもお声が相当によかった。役者になってもいいくらいだ)
大ちゃんが花道をてくてく歩いてくるだけでもけなげで可愛いのだが、それに追い討ちをかけるように、こんなにお洒落な大向こうを掛けられては、ただただ感心するばかり。聞いている我々も観客冥利(なんじゃそれは)に尽きるというもの。こんなに気のきいた大向こうを聞いたのは私の短い観劇の歴史の中でも初めてであったので、相当感動した。

◎冨十郎さんの作る笑いどころ
冨十郎さんは豪気な六助を演じていらした。とても幸せなことに私はこの舞台を2度見ることができたので、六助のアドリブの部分がはっきりと分かって、失礼ながらその演技にとても感心したものである。特に力持ちの女房・お園に着替えを手伝ってもらう場面で、彼女に気を遣う六助の台詞が毎回違ったのには驚いた。(しかもその度ごとにきっちり客席の笑いを取っていらした。そこにもまた感嘆する)加えて、後に母親となるお幸の態度に度肝を抜かれるさま、「みなしご殿」弥三松をあやすさま、など大変コミカルで大仰で、そのくせさらりと客席の笑いを受け流していて、そのあまりの格好よさに惚れ惚れとさせられる。蛇足になるが、六助の着替えシーンは、その思い切りのよさがとても気に入ってしまった。
ところで今回の演目のお園役は、雀右衛門さんの当たり役であったそうで、その雀右衛門さんの、渋くもキレのある演技振りには深い感慨を覚えた。
また、吉岡三之丞(中村玉太郎)、友平(中村信二郎)の切腹シーンがなかなかに見ごたえがあって、特に友平の場合は、腹部に突き刺された刀のつばが舞台に当たってカタカタカタと小刻みに音を立てているのが、場面の緊張を一層高め、また悲劇性を増長させていて、泣けた。
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